数ヶ月にわたって続いた AMD Ryzen 9000 CPU の広範囲な故障をめぐる謎がついに解決され、ASRock が過度に積極的なマザーボード設定が数百台のプロセッサーを損傷させた原因であったことを認めた。この発表は、同社が当初ユーザーの報告を誤情報として退けた後に行われ、影響を受けた顧客は損傷した CPU に対して高額な RMA プロセスを追求する以外に選択肢がなかった状況を受けてのものである。
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Ryzen 9000 CPU の故障に関連付けられている ASRock のマザーボード設計 |
問題の規模
200人以上のユーザーが、特に ASRock マザーボードと組み合わせた際の Ryzen 9000 CPU 故障を報告しており、Ryzen 7 9800X3D などの高価なプロセッサーも被害に含まれている。この問題は、著名な技術系 YouTuber である Tech Yes City が実際に問題を体験したことで大きな注目を集め、ASRock が孤立した事例やユーザーエラーとして片付けていた問題に広範囲な注目をもたらした。
影響規模:
- 200件を超える CPU 故障が報告されている
- Ryzen 7 9800X3D を含む高価格 SKU に影響
- 問題は数ヶ月間継続中
- ユーザーは損傷したプロセッサーの RMA が必要
ASRock の説明が明らかに
Computex での会話中、ASRock の代表者がついに Tech Yes City に対して故障の根本原因について非公式の説明を提供した。同社は問題を、Precision Boost Overdrive(PBO)設定における過度に高い Electric Design Current(EDC)および Thermal Design Current(TDC)設定に起因するとした。これらの設定は、初期の Ryzen 9000 CPU サンプルに対してあまりにも積極的に調整されていたと報告されており、特に ASRock のミッドレンジおよびハイエンドマザーボード(B650E、X670E Taichi、B850 Steel Legend モデルを含む)に影響を与えていた。
影響を受けた ASRock マザーボードモデル:
- B650E シリーズ
- X670E Taichi
- B850 Steel Legend
- その他のミドルレンジおよびハイエンド AM5 マザーボード
技術的な原因
PBO 技術は、温度、消費電力、電流引き込み、ワークロード要求などの複数の要因に基づいて CPU クロック速度を動的に調整する高度なアルゴリズムを使用している。EDC と TDC の制限が AMD の推奨仕様を超えて設定されると、プロセッサーは永続的な損傷につながる可能性のある過度の電気的ストレスを経験する。この問題は、堅牢な冷却ソリューションを備えたシステムで特に深刻になる。優れた熱管理により CPU が長期間にわたってより高い電力引き込みを維持できるため、損傷プロセスが加速されるからである。
主要な技術的問題:
- Electric Design Current (EDC) の設定値が高すぎる
- Thermal Design Current (TDC) の設定値が高すぎる
- 過度に攻撃的な PBO ( Precision Boost Overdrive ) プリセット
- 調整が必要な「シャドウ電圧」
論争における AMD の役割
業界アナリストの Ian Cutress によると、AMD の Ryzen Master ソフトウェアの動作を考慮すると、状況はより複雑になる。このソフトウェアは起動時に自動的に PBO モードを有効にし、ユーザーは BIOS 設定だけではこのアクティベーションを防ぐことができない。PBO を無効にする唯一の方法は、Ryzen Master 内で手動で機能を有効にしてから再び無効にすることであり、多くの人が理解できない可能性のある混乱を招くユーザーエクスペリエンスを作り出している。
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ASRock マザーボードと組み合わせた際にユーザーが経験した障害の中心となった AMD Ryzen 9000 シリーズプロセッサ |
ASRock の対応と解決策
ASRock は、問題のある EDC と TDC 値を削減する更新された BIOS リリースを通じて問題に対処したと報告されており、エンドユーザーには見えないシャドウ電圧の調整も行っている。同社はメモリ互換性の問題と過度の System-on-Chip(SoC)電圧を潜在的な原因として除外したが、後者は以前に Ryzen 7000 シリーズプロセッサーで類似の問題を引き起こしていた。
責任について残る疑問
この論争は、PC ハードウェア業界における責任とコミュニケーションについて重要な疑問を提起している。ASRock が当初ユーザーの報告を誤情報として退けたことは、同社が最終的に問題を認めたことを考えると特に問題があるように見える。AMD も ASRock も問題について公式な公開声明を発表しておらず、消費者は問題の全容と潜在的な救済策について不確実な状況に置かれている。
今後の展開
ASRock は BIOS アップデートを通じて問題を解決したと主張しているが、これらの修正の有効性は時間をかけて証明される必要がある。この事件は、マザーボードメーカーと CPU 仕様の間の複雑な関係、特に PBO のようなパフォーマンス向上機能に関して浮き彫りにしている。影響を受けたユーザーにとって、主な対処法は最新の BIOS バージョンへの更新とシステムの安定性の注意深い監視である。