暗号化をめぐるテクノロジー企業と政府間の緊張関係は、 Apple が英国当局に対して前例のない法的措置を取ることで新たな節目を迎えました。同社は、世界中のユーザーの iCloud サービスのプライバシーとセキュリティを危険にさらす秘密の政府命令に異議を唱えています。
秘密命令と Apple の対応
Apple は、2016年の調査権限法(Investigatory Powers Act)に基づいて1月に英国政府が発行した秘密命令に対して、英国の調査権限審判所(Investigatory Powers Tribunal)に上訴を提出しました。この命令は、暗号化された iCloud ファイルへのアクセスを当局に提供するよう要求するもので、特にユーザーのバックアップを保護するためにエンドツーエンド暗号化を使用する Advanced Data Protection 機能を標的にしているとされています。この命令を受けて、 Apple はすでに英国のユーザーに Advanced Data Protection を提供することを停止していますが、現在は命令の完全な撤回を求めています。
重要な年表:
- 2016年: イギリスが調査権限法(Investigatory Powers Act)を制定
- 2022年: Apple が iCloud の高度なデータ保護(Advanced Data Protection)を導入
- 2025年1月: イギリス政府が Apple に技術的能力通知を発行
- 2025年3月: Apple が調査権限審判所(Investigatory Powers Tribunal)に上訴
法的戦場
この訴訟は、英国の調査権限法に対する初めての異議申し立てであり、9年前の法律の画期的なテストケースとなる可能性があります。 Financial Times が引用した情報筋によると、調査権限審判所は今月にも本件を審理する可能性がありますが、審理が公開されるかどうかは不明です。審判所には、英国の Apple への通知が合法かどうかを判断する権限があり、もし違法であれば、完全に無効にするよう命じることができます。
世界的な影響
この訴訟が特に重要なのは、その潜在的な世界的影響です。 Apple は、このプラットフォームが英国だけでなく世界中のユーザーのデータを保存しているため、英国当局のために作成されたバックドアが、世界中の何億人もの iCloud ユーザーのプライバシーとセキュリティに影響を与える可能性があると主張しています。同社は、英国当局からの圧力が高まっているにもかかわらず、 iCloud のマスターキーやバックドアを作成する計画はないと繰り返し述べています。
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セキュリティとプライバシーの象徴: Apple の暗号化データへの政府アクセスに対する継続的な闘い |
政府の立場
英国政府は、児童搾取やテロリズムを含む重大な犯罪から市民を保護することが単なる目標であると主張しています。内務省の報道官は、政府の目標は人々のプライバシーを保護することだと述べていますが、これは膨大な量のユーザーデータへのアクセスを追求する彼らの行動と著しく対照的です。注目すべきは、英国当局がこの命令の存在を確認も否定もしておらず、この手続きにさらなる秘密のレイヤーを追加していることです。
技術的能力通知
この紛争の中心にあるのは、 Apple が1月に受け取ったとされる技術的能力通知(Technical Capability Notice、TCN)です。この通知は、 iCloud ユーザーが利用できる Advanced Data Protection 機能をバイパスまたは弱体化することを同社に要求するものです。 Apple は2022年にこの機能が導入されて以来、このような通知に抵抗してきたようですが、最終的には英国ユーザー向けにこの追加の暗号化レイヤーを完全に無効にせざるを得なくなりました。
Advanced Data Protection:iCloudのエンドツーエンド暗号化機能で、 Apple 自身を含む第三者がユーザーのバックアップやデータにアクセスすることを防ぎます。
今後の展開
調査権限審判所が Apple に不利な判決を下した場合、同社はさらに上級裁判所に訴訟を提起する可能性があります。この法的闘争の結果は、テクノロジー企業が暗号化されたサービスへのバックドアアクセスを求める政府の要求にどのように対応するかについて、英国だけでなく世界的な先例となる可能性があります。デジタルプライバシーへの懸念が高まり続ける中、この訴訟は国家安全保障の利益とプライベートで安全な通信の権利との間の継続的な議論における重要な分岐点を表しています。